歯科医院は比較的安定した収益が見込める業種である一方、利益が増えるほど税負担も大きくなりやすい特徴があります。そのため、医院経営では早い段階から節税対策を意識することが重要です。
ただし、節税は単に税金を減らすためのものではありません。将来の設備投資や医院運営のために資金を確保し、経営を安定させるという意味合いも持っています。
本記事では、歯科医院でよく検討される節税方法や注意点について解説します。基本的な仕組みを理解しておくことで、医院の状況に合った対策を検討しやすくなるでしょう。
なお、歯科医の確定申告で重要なことについては、以下の記事で解説しています。合わせてご覧ください。
歯科医院で節税対策が重要な理由とは?
なぜ歯科医院は他業種に比べても税負担が重いと感じられやすいのでしょうか。
その2つの理由をみていきましょう。
開業医は税負担が大きくなりやすい
個人の歯科開業医にかかる税金は、主に所得税、住民税、そして個人事業税の3種類です。
このうち所得税は、所得が高くなるほど税率が上がる「累進課税制度」を採用しており、最高税率は45%に達します。ここに一律10%の住民税、さらに事業税が加わると、所得の約半分近くを税金として納めるケースも珍しくありません。
利益が伸びるほど加速度的に税負担が増していくため、対策を講じないままでは経営効率が悪化してしまいます。
計画的な節税が医院経営の安定につながる
節税というと「経費を増やして税金を減らす」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、節税の本来の目的は単純に税金を減らすことではなく、医院に資金を残すことです。
たとえば、将来的な設備投資や医院の拡張を考える場合には一定の資金が必要です。税金として多くの資金が流出してしまうと、こうした投資のタイミングを逃してしまう可能性もあるでしょう。
そのため、節税対策は場当たり的に行うのではなく、医院の将来について考えながら計画的に進める必要があります。
歯科医院で活用される主な節税対策6つ
では、歯科経営において実効性の高い具体的な節税手法、以下の6つの項目を解説します。
- ・医療機器や設備投資による節税
- ・小規模企業共済の活用による節税
- ・経営セーフティ共済の活用による節税
- ・家族への給与による節税
- ・法人化による節税
- ・iDeCoの活用による節税
医療機器や設備投資による節税
歯科経営において避けて通れないのが、ユニットやCT、デジタルレントゲンといった高額な医療機器の導入です。これらの資産は購入時に全額を経費にするのではなく、法定耐用年数に応じて分割して計上する「減価償却」という仕組みを利用します。
特に注目したいのが「少額減価償却資産の特例」です。取得価額が40万円未満(〜R8.3までは30万円未満)のものであれば、年間合計300万円を限度に、購入した年度に一括で経費として落とせます。
また、要件を満たせば「中小企業経営強化税制」などの優遇措置により、高額な設備投資でも即時償却や税額控除が受けられるため、タイミングを慎重に見極めることが重要です。
小規模企業共済の活用による節税
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者を対象とした共済制度です。将来の退職金を準備する制度として知られており、歯科医院の開業医が利用するケースも多く見られます。
この制度の特徴は、支払った掛金(月額1,000〜70,000円、年払いも可)が全額所得控除の対象になる点です。掛金を支払うことで課税対象となる所得を減少できるため、結果として所得税や住民税の負担軽減につながります。
さらに、将来的には共済金として受け取れるため、退職後の資金準備として活用されることもあります。
また、掛金の範囲内で低利の貸付制度も利用可能です。急な資金ニーズにも対応できる柔軟性は大きな魅力と言えるでしょう。
経営セーフティ共済の活用による節税
経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、中小企業や個人事業主が取引先の倒産などに備えるための制度です。万が一の事態に備えた資金確保を目的としていますが、節税の観点からも利用されることがあります。
この制度では、支払った掛金を必要経費として計上可能です。掛金は一定額まで積み立てられるため、課税所得を抑える効果が期待できます。また、将来の資金備えとしても活用できるため、医院経営のリスク管理の一つとして検討されることもあります。
なお、40か月以上の掛金積み立てで、解約時に掛金の100%が戻る仕組みです。
家族への給与による節税
歯科医院では、配偶者や家族が受付業務や事務作業などを担当しているケースも少なくありません。こうした場合、青色事業専従者給与の制度を活用できる可能性があります。
青色事業専従者給与とは、一定の条件を満たした家族に支払う給与を必要経費として計上できる制度です。適正な給与を設定することで、所得を家族間で分散できます。
結果として院長個人の所得が減少し、累進課税の影響を抑える効果が期待できるのです。ただし、労働の事実がないのに「働いていることにする」ことは厳禁ですし、給与額は業務内容に見合った適切な水準でなければなりません。
法人化による節税
所得が一定水準を超え、個人としての税率が高止まりした段階で検討すべきなのが「法人化(医療法人社団の設立)」です。法人税は個人所得税に比べて税率が一定(または段階的)であるため、高所得になるほど法人の方が有利になります。
法人化すると自分自身に「役員報酬」を支払うことで給与所得控除を適用できたり、社宅制度を活用して住居費を経費化できたりと、個人事業主よりも経費の幅が大きく広がります。
一般的に法人化を検討するケースが多いのは、課税所得が1,800万円前後を超えるラインです。ただし、個々の事情で内容は変わってくるため、検討される場合には専門家に相談されることをおススメしています。
また、歯科業界ではMS法人(メディカルサービス法人)と呼ばれる形態が活用されることもあります。これは医療行為以外の業務を別法人で行う仕組みです。制度設計には専門的な知識が必要であり、専門家の助言が必要となってきます。
iDeCoの活用による節税
老後の資産形成を目的としたiDeCo(個人型確定拠出年金)も、掛金の全額が所得控除の対象となります。前述の小規模企業共済と併用が可能であり、運用益が非課税になる点も大きなメリットです。
ただし、原則として60歳まで資金を引き出せないため、医院のキャッシュフローに余裕がある範囲での活用が推奨されます。
歯科医院の節税対策で注意すべきこと
節税は経営にプラスをもたらしますが、やり方を誤ると逆効果になる恐れがあります。以下の注意点を確認しましょう。
過度な節税は税務リスクにつながる
「税金を減らしたい」という思いが強すぎるあまり、プライベートな会食や家事代行などを不自然に経費へ混入させる行為は厳禁です。
税務調査において指摘を受けた場合、追徴課税や重加算税が課せられるだけでなく、歯科医師としての社会的信用も損ないかねません。あくまで実態を伴う健全な経費処理が前提であることを忘れないようにしましょう。
医療業界に詳しい税理士へ相談することが重要
歯科経営は、窓口収入の入金管理、社会保険診療報酬に伴う措置法の判断、消費税の課税有無や選択方式の判断、金属くずの売却のタイミング、歯科矯正の収入の計上時期など、一般業種とは異なる専門知識が求められます。節税制度の適用可否や、法人成りの最適なタイミングを判断するためには、医療業界の商慣習や法規制に精通した税理士のサポートが不可欠です。
医院ごとの財務状況に合わせたオーダーメイドの対策を講じることが、結果として最も効率的な節税への近道になります。
まとめ
歯科医院では利益が伸びやすい一方で税負担も大きくなりやすいため、節税対策を意識した経営が重要です。
設備投資や共済制度の活用、家族への給与支払い、法人化の検討など、節税の方法にはさまざまな選択肢があります。ただし、医院の状況によって適した方法は異なるため、たとえば先輩歯科医師がやっているからといって何でも取り入れるなどはおすすめしません。中には間違った判断になっているケースも多く見受けられるためです。
将来の設備投資や医院運営の安定を見据えながら、計画的に節税対策をするようにしてください。必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、自院に合った方法を検討していくことが望ましいです。