歯科医院の法人化を意識し始めたけれど、「法人化すると実際に何が変わるのか」「自院も法人化すべきなのか」と分からないことが多く、何から考え始めればいいのか悩む方も少なくありません。
本記事では、医療法人と個人医院の違いや、法人化するメリット・デメリットを解説します。
法人化によって生じる変化を理解し、自院に法人化が必要か判断するための基礎知識を身につけましょう。
歯科医院の法人化を理解しよう
歯科医院の法人化を検討する前に、まずは医療法人の仕組みや個人医院経営との違いを理解しておきましょう。
歯科医院の医療法人化とは
医療法人は、医療法に基づいて設立される法人です。歯科医院の法人化は、個人経営の歯科医院を「医療法人」として運営する形態に移行することを指します。
医療法人の設立には、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事の認可が必要で、認可取得後に法務局で設立登記を行います。
また、医療法人は非営利法人であるため、医院で得た剰余金(利益金)を社員などへ配当することはできません。
利益は法人内に残し、設備投資や職員の待遇改善など、今後の医療提供や法人運営に充てるのが基本です。
このように、株式会社などの営利法人とは仕組みが異なることを理解しておきましょう。
医療法人と個人医院の違い
個人経営では院長個人が歯科医院の経営主体となりますが、法人化後は医療法人が経営主体となります。
税金面においても、個人経営の場合、事業で得た所得に所得税が課されるのに対し、法人化すると医療法人の所得には法人税が課されます。
さらに、法人と院長個人の財産を明確に分ける必要があるほか、理事や監事を置くなど個人経営よりも厳しい運営ルールが求められます。
つまり、法人化は単に医院の名称が変わるだけではなく、税務や資金管理、組織運営など経営全体に変化が及ぶのです。
歯科医院を法人化するメリット
歯科医院を法人化すると、税金だけでなく、今後の医院経営にもさまざまなメリットが期待できます。この章では、法人化のメリットを4つご紹介します。
節税効果が期待できる
個人の所得税には累進課税が採用されており、課税所得が増えるほど高い税率が適用されます。所得税率は、5〜45%と段階的に分かれています。
一方、法人化すると医院の所得には法人税が課されます。
所得が高く、個人の所得税率が高くなっている場合などは、所得額や役員報酬の設定によって、個人経営より税負担を抑えられる可能性があります。
ただし、法人化すれば必ず節税できるわけではありません。社会保険料や法人の維持費なども増えるため、法人化前に具体的な試算を行うことが大切です。
社会的信用が上がる
医療法人は、都道府県知事の認可を受け、医療法に基づいて運営する法人です。
法人として経営体制を整えることで、金融機関などからの信用につながり、融資を受けやすくなる場合があります。また、法人として医院を運営することが患者さんの安心感につながる点も期待できるでしょう。
ただし、法人化しただけで融資が受けやすくなるとは限らず、実際の融資では医院の経営状況なども審査されます。
事業規模を拡大しやすい
将来的に分院を開設したい場合に、医療法人化が選択肢になります。
個人の歯科医師が開設できる診療所は原則として一箇所ですが、医療法人では必要な手続きを行うことで、複数の診療所を開設できます。
「今後2院目、3院目を展開したい」など事業規模の拡大を見据えているならば、法人化を検討する価値があります。
事業承継を見据えた体制を整えやすい
個人経営では院長自身が医院の経営主体ですが、法人化すると医療法人が経営主体になります。
そのため、将来後継者へ医院を引き継ぐ際も、医療法人そのものは存続させたまま、理事長など経営を担う人を交代する形で承継できます。
もちろん法人化すれば承継手続きが不要になるわけではありませんが、院長個人と医院の経営主体を切り離せるため、将来の事業承継を見据えた体制を整えやすくなる点はメリットといえるでしょう。
歯科医院を法人化するデメリット
一方、法人化によって新たな負担も生じます。メリットだけで判断せず、デメリットも確認しておきましょう。
設立・運営コストが増える
医療法人を設立するには、設立認可や登記など個人開業にはない手続きが必要となり、設立に伴う初期費用も発生します。
また設立後も、法人として会計・税務処理や各種届出を行う必要があり、税理士など専門家へ依頼する機会が増える場面もあるでしょう。そのため、個人経営の時よりも費用負担が増える可能性があります。
法人化を検討する際は、節税効果だけではなく、設立費用や運営維持費まで含めてメリットが上回るか確認することが重要です。
事務処理が煩雑になる
法人化すると、個人と法人のお金を明確に分けて管理する必要があります。そのため、個人経営よりも法人の方が事務処理は複雑になります。
さらに、会計・税務だけでなく、決算後の事業報告書の提出、社員総会や理事会の議事録の作成・保管、役員変更に伴う届出など、医療法人特有の事務作業も発生します。
個人経営と比べて、法人化すると経理・労務・法人運営に関する事務が増えるため、院内で対応するのか、税理士などの専門家に依頼するのかも含めて、事前に体制を整えておくことが大切です。
社会保険への加入義務が生じる
法人事業所は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所となり、事業主のみの法人も対象です。
そのため、これまで社会保険に加入していなかった歯科医院では、法人化によって新たに社会保険料の事業主負担が発生し、人件費が増える可能性があります。
なお、個人経営の歯科医院でも、常時5人以上の従業員を雇用する医療事業所などは適用対象となります。
法人化を検討する際は、節税効果だけでなく、社会保険料を含めた負担額も確認しておきましょう。
法人資金は自由に扱えない
法人化後、医院で得た利益や保有する財産は、院長個人のものではなく医療法人の財産として管理します。
また、医療法人は非営利法人のため、剰余金(利益金)を社員などへ配当することは禁止されています。
そのため、個人経営時のように医院のお金を院長個人が自由に引き出すことはできません。院長が法人から金銭を受け取る場合は、役員報酬など適切な形で処理する必要があります。
まとめ:歯科医院の法人化は総合的な判断が大切
歯科医院を法人化すると、経営主体が院長個人から医療法人へ変わり、税金や資金管理、組織運営などさまざまな面に影響します。
節税効果や事業拡大、事業承継を見据えた体制作りなどのメリットが期待できる一方で、設立・運営コストや社会保険料の負担、事務作業の増加といったデメリットもあります。
まずは現在の所得や法人化後に増える費用を整理し、個人経営を続ける場合と法人化した場合を具体的に比較してみましょう。
「法人化すると手続きや事務作業が増えて大変そう」と不安に感じる方もいるかもしれません。税務や会計に関する業務は税理士へ依頼することで、院長先生のご負担を軽減できます。
当Progress会計事務所では、現在の経営状況や今後の医院経営についてお伺いしたうえで、法人化が適しているかを一緒に整理していきます。法人化を検討し始めた段階でも、まずはお気軽にご相談ください。
将来の医院経営を見据え、納得できる選択につなげていきましょう。