歯科医院の法人化を検討する目安 所得だけではない5つの判断基準

個人事業主として歯科医院の経営が安定してきて、「売上が増えてきたけれど、そろそろ法人化した方がいいのだろうか」と悩まれる院長先生は多くいらっしゃいます。

実は歯科医院が法人化を検討するタイミングに、「この数字を超えたら法人化すべき」という一律の基準はありません。ただし、所得や診療報酬、今後の事業展開など、検討する際の目安はあります。

そこで本記事では、歯科医院が法人化を検討する際の5つの判断基準を解説します。

自院が法人化を検討すべき段階なのかを整理するために、ぜひ参考にしてください。

歯科医院の法人化は1つの目安だけでは判断できない

歯科医院の法人化を検討していると、「所得1,800万円を超えたら」などといった数字での目安を見聞きしたことがある方も多くいらっしゃるでしょう。

「この金額を超えたら必ず法人化した方がいい」という基準はありません。あくまで数字は目安であって、法人化への検討を始めるきっかけとして捉えていただければと思います。

法人化後は、税制や社会保険、役員報酬などの仕組みが個人事業主の時と変わります。

したがって、節税のメリットだけを見るのではなく、自院の経営状況や今後の事業計画まで含めて判断する必要があります。

歯科医院が法人化を検討する5つの目安

歯科医院が法人化を検討する際の代表的な目安として、5つのポイントを解説します。

前半3つは数字や数値から判断する目安、後半2つは将来の経営方針から判断する目安をお伝えします。

個人の年間所得が1,800万円を超えるとき

節税という点で、院長先生個人の年間所得が1,800万円を超えるときが1つの目安として挙げられます。

「所得」とは、収入から必要経費を差し引いた金額を指します。個人事業主の場合、累進課税制度が適用されるため、所得が増えるほど所得税率が高くなっていきます。

課税所得額が1,800万円超〜4,000万円以下の所得税率は40%。1,800万円を境にそれまでの33%から40%に税率が上がります。
参照:国税庁 No.2260 所得税の税率

さらに住民税10%が加わるため、1,800万円を超える部分の限界税率は約50%となります。

一方、医療法人には個人の所得税とは異なる法人税率が適用されます。

一定の中小法人などでは、年800万円以下の所得部分に15%、800万円を超える部分には23.2%の法人税率が適用となります。
参照:国税庁 No.5759 法人税の税率

法人住民税や法人事業税などを含めた実効税率は、課税所得800万円超の部分でおおむね34%程度となりますが、実際の税率は所在地や所得規模などによって異なります。

このように、課税所得が1,800万円を超えるタイミングは個人の所得税率が高くなるため、法人化した場合との税負担を比較検討する一つの目安といえるでしょう。

ただし、実際には社会保険料の負担増や役員報酬の設定、法人の運営コストなどによって、個々の医院で節税効果は異なります。そのため、具体的な比較検討が必要です。

社会保険診療報酬が5,000万円または総収入が7,000万円を超えるとき

診療収入の金額では、社会保険診療報酬が5,000万円を超える場合、または医業・歯科医業の総収入が7,000万円を超える場合も、法人化を検討する一つの目安です。

社会保険診療報酬については、租税特別措置法26条により、実際にかかった経費ではなく、一定の割合で算出した概算経費を必要経費として計上できる特例があります。

ただし、社会保険診療報酬が5,000万円を超える場合、または医業・歯科医業の総収入が7,000万円を超える場合はこの特例を利用できません。

したがって、これまで概算経費の特例を利用していた医院では、特例が使えなくなると実際にかかった経費をもとに所得を計算することになり、税負担が増える可能性があるのです。

そのため、これらの金額に近づいたタイミングで、個人経営を続けた場合と法人化した場合の税負担を比較しておくとよいでしょう。

医療機器の減価償却費の減少で所得が増え始めたとき

設備投資の視点では、医療機器の減価償却費が減少・終了するタイミングも法人化を検討する一つの目安といえるでしょう。

開業時に購入した歯科診療用ユニットなどの設備は、一度に全額を経費にするのではなく、耐用年数に応じて減価償却します。

たとえば、国税庁の耐用年数表を確認すると、歯科診療用ユニットの法定耐用年数は7年、レントゲンなどの電子装置を使用する一定の医療機器は4年または6年など、機器によって耐用年数が異なります。

参照:主な減価償却資産の耐用年数表

主要な高額設備の減価償却が終了すると、それまで経費として計上していた減価償却費がなくなるため、売上が変わらなくても所得が増える場合があります。

そのため、開業時に導入した高額設備の減価償却が終わり始める時期は、個人経営を続けた場合と法人化した場合の税負担を比較する一つのタイミングといえるでしょう。

分院展開など経営規模の拡大を検討しているとき

法人化は、現在の税負担だけではなく、今後の医院経営を踏まえて検討するのも大切です。

たとえば、分院展開など医院の規模を拡大したいと考え始めたタイミングは、法人化を検討する一つの目安になります。

医療法人は複数の診療所を開設・運営できるため、将来的に分院展開を予定している場合は、事業計画とあわせて法人化の必要性を検討しておくとよいでしょう。

また、医療法人は医療法で定められた範囲内で、一定の附帯業務を行うことも可能です。ただし、実施できる事業には制限があり、定款などへの記載や所定の手続きが必要になる場合があります。

そのため、将来的に事業拡大を考えている場合は、早い段階から選択肢に入れて検討するとよいでしょう。

将来の事業承継を具体的に考え始めたとき

「将来、医院を誰に引き継ぐか」という将来設計の視点も、法人化を考えるきっかけになります。

個人医院の場合、院長個人が診療所の開設者となっているため、後継者へ事業承継する際には、現在の診療所の廃止や後継者による新たな開設手続きのほか、医療機器や不動産、各種契約などを個別に引き継ぐ必要があります。

一方、医療法人では法人そのものが診療所の開設者です。そのため、法人を存続させたまま理事長などの経営体制を交代することで、個人医院に比べて事業承継を進めやすい傾向があります。

将来的にお子さんや第三者への承継を考えている場合は、実際に引き継ぐ直前ではなく、早い段階から法人化を含めた承継方法を検討しておくとよいでしょう。

【歯科医院の法人化】目安に当てはまったら自院の状況をもとに判断する

これまで説明してきた法人化を検討する5つの目安は、法人化を検討し始めるきっかけであり、該当したからといって必ず法人化した方がよいとは限りません。

自分の医院に該当する条件があった場合は、次は「自院が法人化する場合どうなるのか?」を試算するのが重要です。

社会保険料や法人の維持費まで含めて比較する

法人化後は、税率だけでなく社会保険や法人の運営維持費、役員報酬の設定なども変わるため、単純に所得や節税額だけで判断しないのが大切です。

医療法人では、原則として健康保険・厚生年金保険への加入が必要となり、法人側にも保険料負担が発生します。

また、運営のための維持コストも増える場合があり、結果的に想定ほど手元資金が増えないケースがあることも理解しておきましょう。

「税金がいくら減るか」だけではなく、「法人化後の総負担がどう変わるか」で比較するのが重要です。

自院の利益や将来計画をもとに試算する

同じ所得水準の歯科医院でも、経費の金額や役員報酬の設定、家族構成、設備投資の予定などによって法人化した際の効果は個々で異なります。

設備投資を予定してる場合や、分院展開・事業承継など中長期的な経営計画も踏まえて検討する視点が大切です。

自院の利益や将来計画を税理士などの専門家に共有し、具体的なシミュレーションをしたうえで判断するのが適切な判断につながり安心でしょう。

まとめ:5つの目安を参考に自院に合ったタイミングを見極めよう

歯科医院の法人化を検討する目安として、以下の5つのポイントを解説しました。

・年間所得が1,800万円を超えるとき
・社会保険診療報酬が5,000万円または総収入が7,000万円を超えるとき
・医療機器の減価償却費が減るとき
・分院展開・事業拡大を検討しているとき
・将来の事業承継を考え始めたとき

ただし、いずれも法人化を決定する絶対的な基準ではありません。

所得や診療収入が一定の水準に達したタイミングで、個人経営を続けた場合と法人化した場合の税負担を比較し、今後の事業計画も含めて検討するのが大切です。

「自院は今、法人化を検討すべきタイミングなのか」「法人化すると税負担はどの程度変わるのか」など、自院に当てはめた判断が難しい場合は、歯科医院の法人化に詳しい当Progress会計事務所へぜひご相談ください。

現在の所得や診療収入だけでなく、分院展開や事業承継など将来の計画も踏まえながら、法人化に適したタイミングを一緒に検討いたします。

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